Event・Seminar
ウクライナ文化の挑戦-激動の時代を越えて シンポジウム
Challenges of Ukrainian Culture Beyond Turbulent Times
ロシアによるウクライナ侵攻から2年余りが過ぎる中、国内でも国際政治、軍事研究、政治学などの専門家の解説を通じて、戦争の背景や歴史的経緯についての基礎的な知見が広く共有されつつあります。しかしながら、戦争の一方の当事者であり、侵略に抵抗するウクライナの社会や文化については、国内に専門家が少ない事情もあり、ほとんど理解が進んでいないのが実情です。
対象となる国や社会の理解にとって、歴史や政治と並んで、文化面の理解が重要であることは言を俟ちません。なぜなら、当該社会における民俗、習慣、言語活動、文学、芸術一般までを含む文化実践の理解が、その社会で生きる人びとの経験と感情の次元を明るみに出し、政治的な主体としてのあり方を支える世界観の内在的な理解を促すからです。
キエフ・ルーシの時代に遡り、コサックによるヘチマン国家の台頭を経て歴史的に形成されたウクライナの国民意識は、ポーランド王国とロシア帝国、そしてソ連邦による長年の支配を通じて独立と隷属のはざまで揺れ動き、ソ連崩壊を契機とした独立以降にはロシアとヨーロッパのはざまで引き裂かれてきました。そして、ロシアの侵略という国家存亡の危機を経た今、ウクライナの国民的アイデンティティは様々な文化実践を通して劇的な変貌を遂げつつあります。
そこで、国内外で活躍するウクライナ社会・文化の専門家とともに、近年のウクライナの動向に注目して発信に努めてきた論客を一堂に集めて、ウクライナの社会と文化を多角的に論じるシンポジウムを企画しました。本シンポジウムでは、隣国に支配された歴史に翻弄されながらも過去から現在へと継承されてきたウクライナ文化の系譜を辿るとともに、とりわけマイダン革命とロシアとの全面戦争以後のウクライナで展開されてきた文化実践の諸相の考察を通して、そのダイナミックな社会変動を浮き彫りにすることを目指します。
事前登録=対面参加の場合は不要。オンライン参加の場合は事前登録をお願いいたします。
オンライン参加の場合、こちらからお申込みください。
※一部の報告者とコメンテーターはオンライン参加となります。
赤尾光春 あかお・みつはる
国立民族学博物館特任助教。ユダヤ文化研究、ウクライナ・ロシア地域研究。共編『ユダヤ人と自治』(岩波書店)、「ロシア語を話すユダヤ人コメディアン VS ユダヤ人贔屓の元KGBスパイ」『現代思想』50-6、“ A New Phase in Jewish-Ukrainian Relations?: Problems and Perspectives in the Ethno-Politics over the Hasidic Pilgrimage to Uman,” East European Jewish Affairs 37-2 他。
池澤 匠 いけざわ・たくみ
東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻博士課程。スラヴ語学、言語接触、言語イデオロギー。「ウクライナの言語政策関連文書における『国家語』の定義と運用について」『京都大学大学院文学研究科スラブ語学スラブ文学専修年報』3、「ウクライナにおける言語イメージの変化―ロシア連邦による軍事侵攻の影響」『東京大学大学院人文社会系研究科スラヴ語スラヴ文学研究室年報』37、“Antisurzhyk’ Purism: its Actors, Role, and Motives in Modern Days within the Ukrainian-Russian Language Contact,”Slavica Kiotoensia 2 他。
大野斉子 おおの・ときこ
宇都宮大学国際学部准教授。19世紀のロシア文学・文化。『メディアと文学―ゴーゴリが古典になるまで』(群像社)、『シャネルN° 5の謎― 帝政ロシアの調香師』(群像社)、「ネーションと帝国の二重性―ウクライナ作家のアイデンティティ形成」『三田文學』102(152)他。
梶山祐治 かじやま・ゆうじ
筑波大学UIA(ユニヴァーシティ・インターナショナル・アドミニストレーター)。旧ソ連諸国および中東欧の映画。「現代ロシアの映画と文学」『現代ロシア文学入門』(東洋書店新社)、「映画史における日本と中央アジアの関係」Yapon shunoslar Xalqaro Forumi 2-22(タシュケント)、「熱狂する群衆と内省を促すセルゲイ・ロズニツァ」『破壊の自然史/キエフ裁判公式パンフレット』(サニーフィルム)他。
加藤直樹 かとう・なおき
フリーランス。『九月、東京の路上で― 1923年関東大震災ジェノサイドの残響』(ころから)、『謀叛の児― 宮崎滔天の「世界革命」』(河出書房新社)、『トリック―「朝鮮人虐殺」をなかったことにしたい人たち』(ころから)他。
熊野谷 葉子 くまのや・ようこ
慶應義塾大学法学部教授。ロシア民俗学。『マトリョーシカのルーツを探して―「日本起源説」の謎を追う』(岩波書店)、共編『北ロシアの暮らしとフォークロア―アルハンゲリスク州上トイマ地区日露フォークロア調査より』(丸善雄松堂)、『ロシア歌物語ひろい読み― 英雄叙事詩、歴史歌謡、道化歌』(慶應義塾大学出版会)他。
アメーリア・グレーザー Amelia M. Glaser
カリフォルニア大学サンディエゴ校教授。ウクライナ・ロシア・イディッシュ文学。Jews and Ukrainians in Russia’s Literary Borderlands (Northwestern U.P.), Stories of Khmelnytsky: Literary Legacies of the 1648 Ukrainian Cossack Uprising (Stanford U.P.), 訳書 A Crash Course in Molotov Cocktails (byHalyna Kruk; Arrowsmith Press) 他。
鴻野わか菜 こうの・わかな
早稲田大学教育・総合科学学術院教授。ロシア・東欧文化。ポスト・ソヴィエト文学研究会『現代ロシア文学入門』(東洋書店新社)、共編『カバコフの夢』(現代企画室)、『夢見る力― 未来への飛翔:ロシア現代アートの世界』(市原湖畔美術館)他。
イーホル・ダツェンコ Ihor Datsenko
名古屋大学他非常勤講師。「「書籍参照」からみたメレチイ・スモトリツキイ『教会スラヴ語の文法』(1648)の編集について」『〈ロシア的なるもの〉の探求』、「ウクライナ語の場所を表す副詞の形成史」(キーウ;ウクライナ語)、書評「Danylenko Andrii. From the Bible to Shakespeare. Pantelejmon Kuliš (1819–1897) and the Formation of Literary Ukrainian」『スラヴ学論集』21 他。
【コメンテーター】
池田嘉郎 いけだ・よしろう
東京大学人文社会系研究科教授。近現代ロシア史研究。編著『第一次世界大戦と帝国の遺産』(山川出版社)、『ロシア革命― 破局の8 か月』(岩波書店)他。
岡部芳彦 おかべ・よしひこ
神戸学院大学経済学部教授、ウクライナ研究会(国際ウクライナ学会日本支部)会長。ウクライナ研究、日本ウクライナ交流史。『日本・ウクライナ交流史1937–1953』(神戸学院大学出版会)、『マイダン革命はなぜ起こったか―ロシアと EUのはざまで』(ドニエプル出版)他。
越野 剛 こしの・ごう
慶應義塾大学文学部准教授。ロシア・ベラルーシ文学。共編『ベラルーシを知るための50章』(明石書店)、“Ukraine and War in Russian-Language Literature,”Japanese Slavic and East European Studies 43 他。
田上雄大 たのうえ・ゆうた
日本大学危機管理学部専任講師。ウクライナ地域研究・法学。「ウクライナにおける言論の自由」『出版研究』48、「東欧における「記憶法」の分析―「記憶法」における取り扱いとその要因」『法政治研究』8 他。
沼野恭子 ぬまの・きょうこ
東京外国語大学名誉教授。ロシア文学、比較文学。『夢のありか―「未来の後」のロシア文学』(作品社)、『ロシア万華鏡― 社会・文学・芸術』(五柳書院)他。
人間文化研究機構 グローバル地域研究推進事業「東ユーラシア研究プロジェクト」国立民族学博物館拠点
文部科学省 科学研究費 基盤研究(B)「大国主義の現代史」(代表:宇山智彦)・挑挑戦的研究「革命を踊る:中国とソ連における身体表象のインターテクスチュアリティ」
(代表:田村容子)
慶應義塾大学教養研究センター